こんにちはIT推進委員会です


こんにちは! IT推進委員長の上田です。

今年度も、AIをテーマにコラムを2本と、卓話を1回お届けしてきました。今日はその締めくくりとして、この一年を一緒にゆっくり振り返りながら、これからの地方の私たちのAIとの付き合い方を、肩の力を抜いて考えてみたいと思います。

「参謀AI」を育てる経営戦略:AI時代に問われる「選ぶ力」とロータリーの価値:前編
https://ok2720eclub.jp/it/AI2025.html
2026年展望:AIを使う会社/使わない会社の差が"見える化"される年――地方中小企業が置いていかれないための「参謀AI」×「95%化」×「採用革命」――:後編
https://ok2720eclub.jp/it/2026ai.html
AI時代の「メタスキル」──地方中小企業・士業の経験が、一瞬で奪われる前に──
https://ok2720eclub.jp/meeting/reikai260518.html#takuwa

まず、つい先日のちょっと驚いたニュースから始めさせてください。

2026年6月9日に、ある会社が「いま世界でいちばん賢い」と言われる新しいAI「Claude Fable 5(クロード・フェイブル・ファイブ)」を公開しました。ところが、そのわずか3日後の6月12日、アメリカ政府がこれを止めてしまったのです。世界中で、もう使えなくなりました。最初に言われた理由が、また印象的でした。「アメリカ国籍以外の人は、使ってはいけません」というものだったのです。
広く商品として使われていた最先端AIが、国の一声で止まる。これは、実は歴史上はじめてのことだそうです。


ついていくだけで、ちょっと疲れますよね


正直なところ、どうでしょう。半年に一度くらいのペースで「史上最強のAI」が入れ替わって、しかも出たと思ったら止まったりする。これ、追いかけるだけで、ちょっと疲れませんか。

世間ではよく「最新を追わなきゃ、置いていかれますよ」と言われます。でも、本当にそうなのでしょうか。自分は、ここで一度立ち止まって考えてもいい気がしています。


この一年、自分がお伝えしてきたこと


少しだけ、この一年の振り返りを。

昨年12月の前編では、「参謀AIを育てましょう」とお話ししました。AIが奪うのは「作業」であって、あなたの「仕事」そのものではない。だから大事なのは「選ぶ力」ですよ、と。

続く後編では、「使う会社と使わない会社の差が見えてくる年になります」とお伝えしました。地方が置いていかれないために、AIの答えをそのまま使うのではなく、九割五分まで高めて最後は人が確かめる。そんな「95%化」のお話です。

5月の卓話では、もう一歩踏み込みました。必要なのは新しいスキルそのものではなく、「勝てる土俵を選び直す力」ではないでしょうか、と。

こうして並べてみると、ずっとお伝えしてきたのは「AIを入れるか入れないか」ではなかったのかもしれません。「どこに使い、何を自分で選ぶか」。ここに尽きていた気がします。


いまのAI事情を、ざっくり3つだけ


専門的な話は省いて、押さえておきたい流れを3つだけ。

ひとつめは、モデル競争の加速です。半年で中身が塗り替わっていきます。たとえるなら、最新スマホを買った翌週に新機種が出るような感覚でしょうか。

ふたつめは、「規制の時代」に入ってきたことです。Fable 5を止めたのも輸出規制...ものすごくざっくり言うと「国の安全のために輸出を制限するルール」でした。ヨーロッパも2026年8月から本格的なAIのルールが始まり、日本も2025年12月に初めての「AI基本計画」を決めて、1兆円を超える投資を打ち出しています。つまり、最先端ほど突然止まることもある、という新しいリスクが生まれているのです。

みっつめは、自分で動く「AIエージェント」への期待と現実です。盛り上がってはいるのですが、ある調査会社は「2026年末までに、その4割超がうまくいかず中止になるだろう」と予測しています。みんなが盛り上がっているときほど、ちょっとだけ冷静に。これくらいの距離感が、ちょうどいいのかもしれません。


数字で見る、地方・中小の「いま」


実際のところ、地方の中小企業はどのあたりにいるのでしょう。

中小企業基盤整備機構の2026年3月の調査では、AIを導入している企業は20.4%。検討中も合わせると、約4割が前向きでした。いちばんの効果も「業務の効率化」で、8割を超えています。

帝国データバンクの同じ頃の調査では、生成AIの活用は全体で34.5%。ただ、大企業46.5%に対して中小32.4%、小規模28.0%と、少しずつ差が開いてきています。

後編でお伝えした「使う会社と使わない会社の差の見える化」が、数字の上でも少しずつ始まっているのかもしれません。



Fable 5が教えてくれた、もうひとつのこと


さて、ここで冒頭のFable 5の話に戻ります。止められたとき、最初に言われたのは「アメリカ国籍以外は使ってはいけない」でした。
ここに、ちょっと大事なヒントが隠れている気がします。これからは「誰がAIを使えるか」が、国や資本の都合で“選ばれて”しまうかもしれません。みんなが使えるうちに触っておかないと、気づいたときには最新のものは限られた人しか使えない。そんな「機会損失」――ざっくり言うと「使えたはずのチャンスを逃すこと」が、起こりうるのです。実際、「大きな資本を持つところしか使えないAI」も今後出てくる、とも言われています。

とはいえ、ここで「だから全部追いかけましょう」と言うつもりはありません。それはそれで、やっぱり疲れますからね。
ご提案はこうです。自分が「お、これ気になるな」と思ったものだけは、窓が開いているうちに、早めに、実験のつもりで触ってみる。そして触った結果で、早く決める。「これはうちに必要だ」なのか、「これは一旦置いて、いま使えるものをもっと工夫しよう」なのか。この“早く試して、早く決めて、早く動く”が、これからじわじわ効いてくる気がしています。

そしてもうひとつ、備えの話を。いざ「自分の思うように使えない」状況が来ても困らないように、自分の会社の中で動く“自前のAI”も、少しずつ育てておく。そんな方向も、これから出てくると思います。停電にそなえて、自家発電機を一台置いておく。あの発想に近いです。

難しく考えなくても大丈夫です。自社のやり方や言葉づかい、これまで積み上げてきた仕事の型を、AIに少しずつ覚えさせていく。それだけでも、立派な“自前のAIの芽”になります。土台は自社で回る仕組みにしておきつつ、最新のクラウドAIは“使えるうちに”部分的に活用する。この両方をあわせ持っておくのが、現実的な落としどころなのかもしれません。


とはいえ、土俵をずらす、という選び方


いま「いま使えるものを工夫する」と書きました。では、その工夫はどちらへ向ければいいのでしょう。

ひとつだけ、自分の考えを。
AIがいちばん得意なのは、「速く・安く・大量に」です。つまりAIは“数で勝負する戦い方”を、どんどん有利にしていきます。地方の私たちが同じ土俵で大企業やAIと数を競っても……正直、しんどいですよね。

そこで、土俵そのものをずらしてみる。「厚利少売(こうりしょうばい)」という考え方です。これをものすごくざっくり言うと、「たくさん売るのをやめて、少なく売って、その代わり一件ずつ厚く儲ける」やり方のこと。経営者の菅原健一さんの書籍『厚利少売』(匠書房)で語られている考え方で、卓話でお話しした「効率レースから降りる勇気」と地続きの話だと、個人的には思っています。

カギは2つあります。

ひとつめは「変化量」です。お客さんが本当に知りたいのは、「あなたに頼むと、私の状況がどう変わるのか」だけ。たとえば税理士さんが「丁寧に対応します」と言うより、「手取りが年◯万円増えますよ」と言えたほうが、ずっと価格に強いのです。

ふたつめは「誰に売らないかを決める」ことです。全員に売ろうとすると、説明も、例外対応も、どんどん増えていきます。気づけば忙しいのに利益は痩せている。そんなことが、起こりがちなのです。

ここで、AIの出番です。この厚利少売を回すための“参謀”として、AIを使う。お客さんに生まれる変化量を言葉にする、価格を逆算する、見積書やチラシの下書きをつくる。そういった準備を、どんどん任せていい。ただし、最後の確認だけは人がやる。ここは譲らないでください。AIはときどき、もっともらしい嘘――専門的には「ハルシネーション」と言いますが――をさらりと混ぜてきますから。下書きはAI、金額の最終チェックは自分。このくらいの距離感が、ちょうどいいと思います。

というわけで、ぐるっと回って、結局いちばん大事なのは「どの土俵で戦うかを、自分で選ぶ力」に戻ってくるのです。



世界のトップも同じ方向を:でも、鵜呑みは禁物です


ここまで読んで、「自前のAIなんて、うちみたいな小さな会社に関係あるの?」と思われたかもしれません。それが、意外とそうでもないのです。

先日、マイクロソフトのトップであるサティア・ナデラさんが、こんな趣旨のことを書いて、話題になりました。
これからの会社は、2つの“元手”を持つといい。

ひとつは「人の知恵」――社員の判断や経験、人とのつながり、ひらめきのことです。
もうひとつは「自社のAI力」です。そして、AIが育つほど人の価値はむしろ上がる、とナデラさんは言います。

AIに「どこへ向かうか」を指し示すのは、いつも人だからです。カギになるのは「学習ループ」――使うほど賢くなる自社専用のしくみで、ここに仕事のやり方を覚えさせると、やがて“その会社だけの財産”になります。世の中のAIが新しく入れ替わっても、社内に貯めた知恵は残る、というわけです。

これ、私たちが話してきた「自前のAIを育てる」「自家発電機を置いておく」と、ほとんど同じ話です。世界最大級の会社のトップも、同じ方向を見ているわけです。そう聞くと、ちょっと心強いですよね。

ナデラさんは、もうひとつこうも言っていました。目指すべきは、ずば抜けたAIを1つ作ることより、価値がみんなに行き渡る“生態系”をつくることだ、と。ひと握りのAIがすべての価値を吸い上げる世界を、社会は許さないはずだ、とも言っていました。

と、ここで気持ちよく終われたらいいのですが。
実はこの投稿、手放しでは受け取れない、という声もけっこう出ています。せっかくなので、そこも正直にお話しします。

ひとつは、「立場が立場だよね」という指摘です。「自分たちのAIを持ちましょう、それが主権です」とナデラさんは言いますが、そのAIを動かす土台(クラウドのしくみ)は、たいていマイクロソフトのような大きな会社が握っています。つまり“主権を持ちましょう”という言葉が、まわりまわって“うちの基盤を使ってね”になっていないか、という指摘です。実際、アナリストからも「賢いけれど、自社に都合がよすぎる」という声が出ています。

もうひとつは、言葉と現実のギャップです。「人の価値は上がる」と言いながら、当のマイクロソフトは2025年に1万5千人を超える人員削減をしました。しかも、過去最高益のさなかに、です。あるニュースは、これを「AIによる雇用の危機が、もう始まっているのでは」と報じています。きれいな理想と、足元の現実。その両方を、見ておきたいところです。

そして地味に大事なのが、「これ、大企業の話だよね」という点です。自社のデータでAIを鍛える、なんていうのは、エンジニアもデータもたっぷり抱えた会社の戦い方です。町の工務店や、数人の事務所に、そのまま当てはめるのは、さすがに無理があります。

では、私たちはどう受け取ればいいのでしょう。
個人的には、批判があるからこそ、私たちの結論はむしろシンプルになる気がしています。大きな会社の善意や、どこかのプラットフォームに、全部を預けてしまわないこと。自前のAIは、あくまで“小さく、持ち運べる形”で育てておくこと。そして、いちばん確かな“ベテランの知恵”は、結局のところ人の中にあります。それをAIに少しずつ写しておきながら、最後の判断は人が握る。やっぱり、ここに戻ってくるのです。


さいごに :ロータリーという場のこと


情報は速いし、正解もどんどん動いていきます。それを一人で全部追いかけるのは、やっぱりしんどいです。自分自身、毎朝ついていくのに必死です。

でも、ありがたいことに、ロータリーには各業界の現場で実際に手を動かしている方が、たくさんいらっしゃいます。
しかも、利害を抜きにして率直な意見をくれる。これは、検索やAIではどうしても手に入らない、生きた“確認と学びの場”だと思うのです。さきほどのナデラさんは“価値がみんなに回る生態系を”と言っていました。

でも、それを誰かが用意してくれるのを待つより、顔の見える仲間うちで価値を回すほうが、ずっと確かです。その意味で、ロータリーこそ、いちばん身近な“生態系”なのかもしれません。
だから、完璧な計画を立ててから動こうとしなくて大丈夫です。まずはその知恵を少し借りながら、自分のできるところから、一歩だけ。
そして、その一歩を支える場として、このクラブはあり続けたいと思っています。

来年度はAI/DX推進委員という立場でも関わらせていただきます。引き続き、この場で一緒に学んでいけたら、こんなに嬉しいことはありません。

一年間、お付き合いいただき、本当にありがとうございました。



2720 Japan O.K.E Club 例会

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